マイ・ベスト・ブック 〜この本、おすすめ!〜
No.2 (2006.12)

山口県立山口図書館 新刊児童書研究会編集 
山口県立山口図書館 子ども読書支援センター発行 (隔月発行予定) 
TEL083-924-2111。 FAX083-932-2817。
    

  このブックリストは、新刊児童書研究会メンバーが推薦する本のブックリストです。子ども読書活動推進にお役立てください。

 <絵本>
〇ヨンイのビニールがさ
    ユン・ドンジェ作  キム・ジェホン絵  ピョン・キジャ訳 。岩崎書店 2006.5 
     1980年の初め頃に発表された詩がもとになっている絵本。ヨンイの控え目な優しさが、少ない言葉からも伝わってくる。雨降りの日なので、どんよりした景色と足元の泥の色に、ヨンイのビニールがさの緑色がきれいに映えている。話はありがちだが、素朴な絵と短い言葉がとても印象に残る。 (S.Y)
〇くもりのちはれ せんたくかあちゃん
    さとうわきこ作 福音館書店  2006.6
            36年前に出された『せんたくかあちゃん』の第2弾です。1ページ目の文章は、そっくり同じでホッとするスタートです。彼女に一番似合っている、とびっきりいきのよいセリフ、「よしきた まかしときぃ」も健在です。天気の悪い日にもたくさん洗濯をし、たこをあげて雲の上に干すことを考えて実行するかあちゃんの行動力は、同作者の別シリーズ『ばばばあちゃん』と共通する痛快さがあります。かみなり様たちとのやりとりも楽しく、元気が出てきます。ちなみに、せんたくかあちゃんは『あめふり』(ばばばあちゃんシリーズ)にもご出演です。 (M・I)
〇スーザンのかくれんぼ
    ルイス・スロボドキン作  やまぬし としこ訳 偕成社  2006.6     
 にいさんたちが飼っているクモから逃れるために、スーザンはあちこち隠れますが、いつも誰かに見つかってしまいます。でも、やっと見つけた柳の木の下は誰にも見つかりませんでした。こっそり隠れて誰かに見つかるまでのスーザンの緊張感が伝わってくる作品
です。文章の量は、絵本としてはやや長めですが、ストーリー自体は単純なので、幼稚園児くらいから楽しめます。スーザンを見つめる大人の目がとても温かく、スーザンの幸せな環境が伝わってきます。 (N.Y)
〇ちびすけ どっこい    こばやしえみこ案  ましませつこ絵  こぐま社  2006.7     
 『わらべうたえほん』シリーズの三作目。
 「ちびすけ どっこい はだかで こい ふんどし かついで はだかで こい」という繰り返しがリズミカルで楽しい。絵も、表情の変化がはっきりわかり、小さい子にも理解しやすい。色合いは和風で、作品の雰囲気に合っている。1〜2歳児対象のおはなし会で読んでみた。体を動かして、とても楽しんでいた。  (H.H)
〇リリアン     山田太一作  黒井健絵  小学館  2006.6     
  とても不思議な雰囲気の話で、短いドラマを見ているようでした。男の子がチョークで自分の周りをマルで囲むと現れる女の子。大男は、女の子は人形で、しゃべったのは自分だと言うが、本当に女の子は何も自分からは話さなかったのか? 大男の「夢と本当はちがうんだ」という言葉と、それでも少しくらい女の子にしゃべってほしいと願う男の子。本当は3人とも、さびしいのではないかと思った。 (S)
 <小学生向き読み物>
のんきなりゅう
    ケネス・グレアム作  インガ・ムーア絵  中川千尋訳  徳間書店  2006.7
     1898年にグレアムが書いた作品を、インガ・ムーアが文章を短く書きかえ、カットした部分については絵で補いながら新しい作品にしたもの。心の優しい竜、その竜と友達になった男の子、竜退治のため村にやってきた騎士、聖ジョージ――3人の心の通い合いがとても温かく描かれている。絵も、中世の雰囲気をよく伝えるが、決して古臭い印象は与えない。グレアムの原作を訳したものとしては『おひとよしのりゅう』(石井桃子訳 学習研究社 1966年)がある。読み比べてみるとおもしろいだろうと思った。 (N.Y)
 <ティーンズ(中・高生)向き 読み物>
〇かかしと召し使い
     フィリップ・プルマン作  金原瑞人訳 理論社  2006.9     
  名家ブッファローニ族の広大な土地を相続することになったかかし卿と、彼の召し使いとなった少年ジャックのユーモラスでナンセンスな冒険の物語。「わたしとともに、世界中をまわるのだ。ときに、食べ物に不自由することはあるかもしれないが、冒険に不自由することは決してないだろう」とのたまう。誇り高いが、見当はずれなカブ頭の紳士、かかし卿。そして、彼を助けて旅をする、賢くて機転の利くジャック少年との冒険の数々は、ときには、はらはらしながらもおかしくて、あたたかい。金原瑞人の軽妙でテンポ感のある文章も読みやすく、読後に心地よい楽しさが残る。 (S.J)
 <ノンフィクション>
〇戦争をくぐりぬけたおさるのジョージ 作者レイ夫妻の長い旅
     ルイーズ・ボーデン文  アラン・ドラモンド絵  福本友美子訳  岩波書店  2006.7   
  『ひとまねこざる』シリーズで有名なレイ夫妻が、第二次世界他戦中、ナチスの侵攻を逃れ、パリを脱出しアメリカに渡るまでの数カ月間の様子を、彼らが残した手紙や手帳、新聞のインタビュー記事などをつなぎ合わせて丹念に追っていった作品。著者自ら二人の足取りを追う旅をしたということ一つをとってみても、この1冊に込められた著者のエネルギーを感じる。欲を言えば、大型絵本以外にもう1冊、研究書としてさらに内容の濃いものが出るとうれしい。  (N.Y)
カシの木   ゴードン・モリソン作  越智典子訳  ほるぷ出版  2006.7
        1本のカシの老木が、どのように自分の生命を保ち、集まってくる鳥や虫たちを迎え入れているか、1年の様子を追っていった作品。内容的に関連のある事項については(例えば光合成とは何か、木の地下部分はどうなっているか、木に巣を作るコマツグミとはどんな鳥か等々)ページの下の方に解説がつけてある。この説明が各ページに入るより、最後にまとめてあった方が作品としてはすっきりするような気がした。訳は丁寧でわかりやすい。 (N.Y)
〇マンガと図解でわかる! 13歳から始める「株とお金」のはなし
     森永卓郎監修  子どもと株の研究会編  KKベストセラーズ  2006.6   
  株を買う=その会社を応援する、というのがこの本の基本姿勢。今までは何となくしかわかっていなかった用語も、理解できた気がする。最初の動機は「お金」でも、株をきっかけに社会に目を向けるようになってくれれば無駄ではないのかも。 (M.S)
 <研究書>
〇同じうたをうたい続けて    神沢利子著  晶文社  2006.6     
 神沢さんは今年82歳。これまでにも『流れのほとり』(福音館書店)に樺太で過ごした少女時代を、『いないいないばあや』(岩波書店)でさらに幼い頃の思い出を描いておられ、創作の源をうかがうことができます。今回の作品には「命」をうたい続けてきた神沢さんの思いがちりばめられています。 「いまはただ、わたしのかくもの、かいたものが、こどもたちのいのちの火に風を送る、鍛冶屋のふいごの役をつとめるものでありたいとねがっている。」(P201) というくだりが心に残っています。(N.Y)
  
       以上です。
 
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